殺処分

 なるほど、テレビで何度か見たように、野犬だった過去を持つと、人間は単なる敵でしかないのだ。どれだけ脳裏に、人間は怖いものと言う記憶が詰め込まれているのだろう。怯えた様子だけが伝わってくる。尾を下げ、目はそらせ、隅に隅に逃げていく。とてもかわいい顔つきをしているのに、恐怖以外の表情をしない。
 昨日徳島県から殺処分寸前で保護された犬がやってきた。よりによって元野犬を選ばなくてもいいだろうと思うが、怯えた様子を目の当たりにすると、何とかこの犬に今まで失った幸せ以上のものを与えてあげたいと思った。恐らく娘はその目的のために引き取ったのだと思う。僕は頭をなでるくらいしか出来ないが、その僕でも、この犬を幸せにしてあげたいと強く思った。
 幸い心優しい娘と、犬語が分かる妻がいるので、保護犬のお世話をしている人が言う「半年くらいかかる」は短縮できるのではないかと楽観している。心を閉ざした犬が信頼関係を築き野生の本能の「逃走」の心配がなくなるのは半年くらいかかるらしい。その間スキンシップも取れないのかと残念に思ったが、娘と妻ならやってくれるだろう。
 やってきたときから甘え上手のいわゆるペットしか経験は無いが、一匹の犬の命を救えたことはなんとも言えない喜びだ。怖くて今は出来ないが、頬ずりをするくらいには、仲良くなりたいものだ。