感謝

 満身創痍と言うより単なる老化なのだろうが、家族としてはなかなか受け入れられるものではない。ミニチュアダックスだからいつまでも赤ちゃんのように見える。もう随分前から白髪が生えていたが、やんちゃで甘えん坊だったから歳を寄せたとは見えなかったし思いたくもなかった。ところが半年くらい前から耳に続いて目もかなり見えにくくなっている。光線の加減で黒目の部分が白くなっているのが分かる。白内障だ。夜にはもうかなり見えにくくなっているみたいで、外に連れ出すと足を溝に落としたりする。哀れで心が痛む。
 身体にはもう数年間、腫瘍がいくつも出来ていて、こぶの集まりのようにお腹がなっている。よその人が見たら驚くだろう。獣医はモコが歳を寄せているからもう自然に任せようということで、検査もしないし積極的な治療もしない。モコをかわいがっている娘夫婦も同感らしくて、休日もやってきてはできるだけ時間をともに過ごすように心がけてくれている。最近は足腰も衰えて動きが随分と緩慢になってきた。時によろけたりするのを見るとその都度心が痛む。僕の両親が衰えたときとは何故か感情が違う。両親のときは運命だと思い冷静に見ていたが、モコの場合は哀れで時に目をそらせたくなることもある。恐らく両親のときは、年齢相応の出来事だったから冷静であったのだと思うが、モコの場合はその姿かたちでどうしても歳相応には見えないのだ。だからあたかも赤ちゃんが病気で苦しんでいるような錯覚に陥ってしまうのだ。
 娘達はモコのために、これ以上は出来ないくらい尽くしている。豪華な食事を取り寄せ、腫瘍に効く漢方薬と体力を増す漢方薬を作り、人間だったら月に10万円位するある天然薬を飲ませている。最近は足腰のために別の天然薬も利用しているみたいだ。僕が何十年かかって人間用に考えた処方をモコの為に作ってあげている。
 10数年間、毎晩僕の体の一部に自分の身体をくっつけ一緒に眠ったり、膝の上で寝たりと、随分と心を癒してくれた存在だ。娘夫婦の気持ちが通じたのか、体重が増えて運動量も少し増えて獣医が驚いていたが、僕はモコに対する感謝として、最期は出来るだけ家族交代で膝の上に抱いていてあげようと決めている。