格言

 僕より一回り以上歳が大きい女性が、僕より一回り以上歳が小さい息子さんの相談に来た。息子さんにガンが見つかり、既に転移もしているらしい。最初の病院にかかったときにはグレーゾーンだったのか経過観察で、その後正式に診断が降りたらしい。本人の落ち込みようは相当なもので、母親もまた打ちひしがれている。ただ、母親の本性だろう、息子を守るために懸命に努力を始めている。  僕の父の代からずっとヤマト薬局を利用してくれている人で、僕がガン患者さんのために漢方薬を作っているところも何度も見ていた。だから、迷わず相談に来てくれたのだが、母親と言うものを余すところなく見せてくれる。何度も「私が代わってあげたい」と繰り返した。ガンの漢方薬は決して安くはないが、ためらうことはなかった。長寿の国では、親が長生きをするから、逆さ仏になる確率も高い。順番ならまだ諦めもつくが逆は親にとって一番つらいことだ。  子が親の相談に来ることは、実は意外と少ない。老人のトラブルは、多くは単なる衰えの場合が多い。それにいちいち病名を当てはめて、治そうとするのだが、老いは治らない。それだからか、或いは親子関係がこの国では崩壊しかけているからか、クールなものだ。親を思ってつれてくる人はそれだけでたいしたものだが、子が親のためにお金を出すのはほとんど見た事がない。貯金や株は高齢者が6割以上所有しているから、親が出すのは分かるが、経済的に余裕がなければ親孝行も中途半端になるのか。  金は天下を回らないもの。そろそろ格言を変えるときだ。