吉田拓郎

 目を疑うのか、耳を疑うのか分からないが、頭は疑っていない。こんなに時代は変わったのだと感慨深い。  朝のニュースかワイドショーか分からないが、(ニュースのつもりで見ていても、突然低脳人の話題になる)吉田拓郎がコンサートをすると告知があった。僕らの時代の大スターだ。御歳70歳らしい。  最近牛窓に来た「いとうたかお」のライブに行って相反する二つのことを感じた。一つは、あの年齢で曲を作り、ギターを弾き、歌うことが出来ることへの畏敬の念。もう一つは、あの年齢でお金を取って唄歌いでいられることの違和感。プロだから上手に決まっているが、やはり年齢には勝てずに、嘗てのように声は出ない。10の能力が8くらいに下がっている感じだ。今でも肯定と否定が入り混じって僕の中で評価が定まらない。  拓郎も同じではないかと思う。心優しいファンばかりだから70歳の声量でいいのだろうが、嘗てコピーで楽しんでいたファンとしては、あまり衰えた姿は見たくない。ドキドキ心配しながら聴かなければならないのでは楽しさ半減だ。  そもそも、あの年齢でコンサートを開くなど嘗て誰が想像しただろう。僕ら素人は、大学を卒業したら音楽などにかまっていられないと思っていた。だから音楽(フォークソング)をやるのはせいぜい大学時代と決めていた。ところが最近の老人はすこぶる元気だ。フォークソングどころか、収賄しても睡眠障害と言って人前に出ないし、家族連れの旅行を重要な会議と見え透いた嘘をつくし、暴力は振るうし、万引きはするし、ストーカーはするし、人は殺すし。  嘗て僕は「よしてたくろう」と言うコンサートを、大学祭の時に開いた。学外から本物の吉田拓郎と間違えて客が来た。今思えば壮大なギャグをやってのけたものだ。何故あのときに誰にも責められなかったのか不思議だが、まだ人に余裕があったのだろうか。今はもう「よしたたくろう」になってしまったが、本物がコンサートを開くと聞いて、40年前のことを思い出した。