のぞき見

 日曜日、漢方の勉強会に急いでいた時、ある有名ラーメン店が目に入った。テレビで行列が出来る店と紹介されたチェーン店の一つらしいが、実際に行列が出来ているのを見たことはない。もっとも、僕がその店の前を通るのは必ず日曜日だし、城下から駅までの電車通りも最近はそんなに人が出ていないから、行列が出来るほど繁盛はしていないのかもしれない。ただ名誉のために付け加えておかなければならないが、ひょっとしたら平日は勤め人の昼食などで行列が出来ているのかもしれない。 その日初めて僕は店の前で待っている数人を見た。行列まではいかないが確かに5,6人が待っていた。やはり人気があるんだと興味を引かれながら前を通り過ぎようとすると、その中の一人の男性が目に留まった。同時に彼も又僕が分かったようで、お互いに近づいた。  嘗て僕のブログにも登場したことのある会社の社長なのだが、奥さんと二人で店の前に立っていた。結構寒い日だったが、そこまでして食べたいのかとおかしかった。職業柄や経済力からすると何でも食べられそうな人なのだが、まして肉食系を地でいくような人だから、生肉でも食っていれば良さそうなのに、ラーメン屋の前で寒さに震えながら待っている姿の余りにも風景に溶け込んでいないのが滑稽だった。寧ろ草食系に見える僕の方が、待ってまで物を食べることに耐えられずに、まずくてもすぐ食べられる所に行くか、食べないで我慢するかなのに、じっと我慢の彼の不釣り合いさが印象的だった。  丁度薬局の前の駐車場の工事を彼に頼んでいたので、その話題を少しだけして別れたが、完全に仕事から離れた人を偶然見つけるのは、何かのぞき見のような気がして、そんなに好きではない。やはり人はどことなく神秘に包まれているのがいい。仕事が出来る人などは特に。