沈没

 どうして僕がこんなことを応対中に喋らないといけないのかと考えると空しくなってくるが、一つ一つの積み重ねで少しでも生薬の枯渇を防げるかなと、はかない夢を抱いたりする。  はたしても例の葛根湯を買いに来る。4日間飲んでいるが全然風邪が治らないと言う。何処で買ったのか勧められたのか知らないが、葛根湯が風邪薬だなんて考えない方がいい。誰がいつ儲けるためにそのようなことを流行らせたのか知らないが、いい加減罪なものだ。無駄な生薬資源が胃袋の中に捨てられる。  全く効果を感じていないのに葛根湯を買いに来るから、葛根湯は風邪薬ではないと説明した。ましてダラダラ飲む薬でもない。あなたがこの先風邪をひいて葛根湯を飲めば、将来漢方薬を飲める人が減る可能性がある。ただでさえ資源不足なのだから、正しい使い方をしてと頼んだ。そしてその日の症状を尋ね、ヤマト薬局で作っている風邪薬を渡した。3日分で900円。これで治ると思うよと言葉を添えていたら、4日目にその男性が再び来た。そしてその日のうちにどっと楽になったそうで、自分が移してしまった家族の分を取りに来たらしい。  いちいち処方の批判をすると何か僕がひねくれているように思われてもいけないから敢えて黙っていることが多いが、これからは間違っている人にはこの手に限る。将来のためにと言うとっても美しい心の持ち方を全面に出せば、多くの人が納得してくれそうだ。これだけ漢方薬を使ってきたら、世間で流通している処方が正しくないことなんて透明ガラスのように見通すことが出来る。メーカーや同業者の悪意や胡散臭さなんて嗅覚で分かる。 法律でさばくことが出来ない悪意に、いつかこの国も又沈没するのではないかと憂う。