脅威

 いつの頃からあれだけ有名になったのか知らないが、僕は今日初めてマックロ?と言う服屋さんに行った。服屋さんという分類が的を射ているのかどうか分からないが、少なからず驚くことがあった。一番驚いたのは僕がそんな店に入っていったことだろうが、かの国の若い女性に頼まれてだから、結構敷居は低かった。一人では絶対に入らないし入れない。  店内に入ると、スッと買い物籠を持つ人が多かった。まるでスーパーの食品売り場に入ったときと同じ行動だ。籠に入れなければならないくらい一度に沢山服を買うのかとまず最初に驚いた。そして人の多さにも驚いた。一般の服屋さんが1日どのくらいの客数か知らないが、恐らく僕が見た一瞬の客数の方が圧倒的に多いだろう。これだからオーナーは長者番付の上位にランクされるのだろう。  かの国の人には見るだけだよと、何となく予防線を張っていた。懸命に働いても日本人の最低賃金くらいしかもらえない彼女らにとって、日本での買い物は負担だろうと思ったのだ。少しでも多く国に持って帰って欲しいといつも僕は思っている。ところがちょっと目を離した隙に一人がちゃっかり籠を持って買い物をしている。そしてその中にさっきから頻りに手にとって眺めていた半ズボンを入れていた。「見るだけだよ」と如何にもいやみったらしく言うと「安い、安い」と値札を見せてくれた。なるほど680円だから安い。「メチャクチャ安いではないの」と僕はその後連発した。服など買ったことがない僕はそもそも衣料品の値段を知らない、680円に○を一つつけたくらいが僕の相場だった。だから正直その安さに驚いた。後進国で作らせて単価を下げているのだろうが、これならみんな買い物籠を入り口で手にとる筈だ。  ちょっと見るだけの約束が、1時間にもなった。他人だから忍耐強く待ったが、家族だったら文句を言っている時間の長さだ。やっと得心がいったのか物色を止めてレジに並んだのだが、レジの前で長い行列が出来ていた。食料品でもないのに何故こんなに消費者が集まるのだろうと、僕の常識では答えを導き出せなかった。  元々服に興味など無い僕でも、この集客と売り上げは個人の店などでは太刀打ちできるものではないと思った。世界のマックロを相手に出来る個人の店など到底考えることが出来ない光景だった。どれだけ多くの個人店主が生活の糧を失っただろうと業種を越えて同情した。ここまで成熟されてしまうともう誰にも太刀打ちできない。もし少しでもダメージを与えられるとすればこの僕くらいなものだろう。何故なら10年に一度ジーパンを買うくらいで、後はもらい物ばっかりで過ごすことが出来るのだから。同業者より買い物をしない人間の方が彼らには脅威だろう。