理不尽

 正月が開けて日常が又始まったが、新しい年に希望を持って仕事に復帰した人ばかりとは言えないだろう。あるセールスもその中の一人かもしれない。そしてそれが平均的な職業人の姿か、あるいはまだ幸運にも少数派かは分からない。  年末のボーナスの査定が思いの外、悪かったらしい。本人は頑張った気持ちがあるらしくて、その逆を想像していたのだそうだが、セールスにとってそのモチベーションだけでは評価の対象にはならず、唯一数字がものを言うらしい。正月明けの本社での初会議を3人のセールスが体調不良で欠席したり、途中退席したらしい。3人と言えば少なく聞こえるが、総勢で10数人の規模だから割合としては高く、その理由も意味不明な欠席ばかりだったらしくて、お互いがその心中を思いやったらしい。  復興特需などという不謹慎を享受している人達の陰で、相も変わらぬ低空飛行は蔓延している。消費を煽った時代の数字に縛られて、働き人は鞭を打たれる。体を壊し、心を壊し、関係を壊し、自尊心を壊す。心弱き人は自壊し、退場する。  自嘲気味のセールスに気持ちはなびかない。温かいコーヒーを飲んでもらって、注文なしで帰ってもらう。実り少ない商談を恐らく日がな一日、多くの取引先でくり返しているのだろう。食うに困らぬ報酬は保証されているが、輝きのない日常をどう消化しているのだろうかと勘ぐってしまう。  およそ30%の若者がこの春も舞台に上がることが出来ない。何も演じないまま、あのセールスの落胆さえ演じることが出来ないまま、あてのない出番の前で力尽きる。この理不尽を食って肥満している一部の将軍様を、多くの餓鬼が養う理不尽こそが理不尽。