想像

 昨年末、突如来られて、逆流性食道炎漢方薬が欲しいと言われた。症状を聞いてお作りしたのだが、そしてお作りした処方やグラム数を記録しておきたいと言ったのだが苗字を教えてくださっただけで、名前や住所や電話番号は教えていただけなかった。しょうがないからカルテには名前だけ書き、住所は勝手に瀬戸内市と書いた。90歳で車を運転して来れるのだから遠方からではないと言う想像で瀬戸内市にしただけの話だ。
 最初の2週間でとても良く効いて、漢方薬の評価を上げてくれた。当初僕が誰が飲んでもいいような箱入りの漢方薬を出すと思ったのだろう、手作りの漢方薬を評価してくれて、自分が引退した医者で、ランソプラゾールみたいな薬を飲みたくないと言われた。現役の時には患者さんに処方していたが、何らかの理由(僕にはわかるが)でご自分は飲みたくないらしい。以来ほとんど2週間毎に来られてずっと順調みたいで、少し漢方薬に興味を持たれたのか、成分について質問され、僕がどうして漢方薬を始めたか興味深く聞かれたりした。そして昨日来られた時に「患者に合わせて作ってもらえるのは有難い」と言われ、帰りがけには「お世話になりました」と言って帰られた。
 恐らく何十年その逆の立場で、多くの患者さんに頭を下げられて過ごしてきたのだと思うが、穏やかに老いて、口慣れない言葉も自然に出る。所詮僕など田舎の薬剤師だから、恐れ多いが「老いてはかくありたい」と思わせてくれる。

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