雲海

 社員の面倒見の良い社長だから、開店早々やって来ると言う早朝の予約電話でも、自分のトラブルだとは思わなかった。
 入ってくるなり「すい臓がんになった。何でわしがなるんじゃ、あんたみたいに今にも死にそうな人間がならずに」といつもの悪態をつく。もう10数年の付き合いになるが、いずれ何かの癌になるだろうとは思っていたが、すい臓がんとは、よりによってと同情した。
 ただし伏線はあった。最盛期には、タバコ1日100本の豪傑。コーヒー10杯。釣りにゴルフに高血糖。嘗て空手で鍛えた肉体も、今は筋肉が脂肪に変わり見かけはほとんど相撲取り。
 お医者さんが「手術前までに痩せておいて」と言った理由が、雲の中で手術をするようなものと面白い例えをされている。脂肪の雲海の中で手探りで癌を探さなければならないから、できるだけ痩せておいてと言われたらしい。そこで僕を思い出して来たみたいだ。
 脂肪が減って痩せるための手立てを考えて、なおかつ抗がん剤に負けない漢方薬を持って帰ってもらったが、帰る前に「長生きできるように頑張るわ」と思わず口から出た僕の言葉に「長生きさせて!」と瞬時に帰ってきた言葉に本音が表れた。
 ぼくより数歳若い彼の心残りは「まだ後継者が育っていないこと」らしいが、よく働きよく遊び、僕なんかより多くのものを持っているだけ未練は大きいだろう。「それだけいい目をしてきたんじゃから、思い残すことはないじゃろう」と喉まで出ていた言葉をひっこめた。

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