加速

 薬局を開ける前、30分くらい時間があったから、再びドッグランに行き草を抜いていた。すると入り口の砂利を踏みつける音がしたから振り向くと、軽四自動車が止まり、ある女性が下りてきた。
 都会に出ているお嬢さんが調子が悪いから帰らせて、相談に来ると言う用事だった。僕が見えたので入ってきたらしい。都会の病院でMRIまで撮って原因はないと言われたのにお嬢さんの頭痛が頭が割れるほどらしいから、話を聞いてやって頂戴と言うものだった。
 それだけの話だったらすぐ終わるのに、そしてそれが一番の懸念のはずなのに、食中毒予防のために、夏にクレープを休む代わりに、ソフトクリームを売ったらどうかと言うのだ。何なら私が売ってあげると言わんばかりの熱弁だったが、僕にその権限はないから、話を聞くだけに終わった。でも、なかなか参考になったし、何より僕が出費しているだろうことを心配して「元をとったら」と心配してくれていることが嬉しい。
 本人はもちろん家族7人の漢方薬を30年近く作り続けているので、そして田舎の薬局だからお互い良く知っているから、いつか僕がふと漏らした言葉を、その後、敢えて確認された。そして、それは困るとはっきり言われた。
 僕は、自分の漢方薬の処方を息子と娘に残しているが、「処方は分かっても、身体のことや気持ちまでは分からんじゃろう」と言うのだ。だから僕にあの時の「75歳まで仕事をする」と言う言葉を考え直してと言うのだ。
 75歳はいわば未知の世界。どれだけ体力と頭脳が衰えるか分からない。頼って来てくださる人の役に立てれるだけのものが、残っているのかどうかは分からない。だから自分で潔く期限を切らないと、迷惑を周りの人にかけてしまう可能性がある。今の僕を見て、まだその年齢ではできると思ってくれているのだろうが、転がり落ちる石は加速する。
 「自分も、少しは草抜きを手伝えよ!」とでも言わないと話が終わりそうになかったので、実際にそう口に出した。案の定、答えにもなっていない答えを持って帰って行った。