桃の花

 僕が牛窓に帰った頃はよく売れていた。中身がどのような状態のものか、成分が何かも興味がないから知らなかったが、農家の方に特に売れていたように覚えている。今初めて成分を見てみたら、やはりワセリン基剤のものだった。恐らくべたべたするのをお構いなしで、手の荒れを防いだり治したりするのに優れていたのだろう。当時の働き者の必需品だったのだろう。
 時代が進むにつれて、色々なものが発売され、古典的なものは消えていった。僕の薬局で残っているのは、唯一この「桃の花」と言うハンドクリームだけだ。色々僕も新発売される商品を扱ったが、桃の花以外には残っていない。そしてその生き残りの桃の花も、たった一人の老人が使っているだけで、その方のために1年に1個仕入れている。
 今日、母親の漢方薬を取りに来た50代くらいの女性が、話の途中で「桃の花」と言う商品名を口に出した。唯一の生き残りが80代だからギャップがあり過ぎる。「どうして桃の花と言う名前を知っているの?誰か使っているの?」と尋ねてみた。すると女性はけげんな顔をした。自分が何か勘違いしたのか、相手の僕が間違っているのか一瞬判断が出来なかったみたいだが、何かに気付いたみたいで、「上阿知の特老の中のデイサービスが桃の花言うんよ」と教えてくれた。なんと、50年以上前からあるハンドクリームと、彼女のお母さんが世話になっているデイサービスの施設名が同じだったのだ。「ハンドクリームみたいな名前じゃな」と僕が言うと「桃の花と言うハンドクリーム見たことある」と言った。「桃の花と言う名前のデイケアだったら、お母さん、しっとりするかもしれんなあ」と言うと、「べたべたするよりましじゃあ」と返した。
 痴呆がかなり進んだ母親を、自宅でかたくなに世話をしている優しい女性だが、せめて僕の薬局に来た時くらいは1回でも笑って欲しい。笑顔が作れる漢方薬があればどれだけの人を幸せにできるだろうと思うが、今は僕の口ひとつしか武器はない。

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