高級車が駐車場に止まり、運転手が出てきたが車のそばから離れない。別に興味はなかったので、しばし目を離していたら、数分後に、女性が直立不動状態でやっとの思いで入ってきた。
初対面の人かと思ったら、４０年来の知り合いだ。ただこの数年会っていなかったのと、マスクのせいで顔の多くが隠されていたせいで、パッと見では分からなかった。渡された処方箋の名前でわっかった。
天性の明るさか、体の悲鳴ほどは心は悲鳴を上げていなかったが、背骨を折って病院からの帰り道だそうだ。もちろん初めての骨折なら入院だろうが、同じ個所を折ったので、入院を断って帰ってきたらしい。健気にも義父の介護があるらしい。
１か月前に骨折してほぼ癒えていたところ、昨日転倒して同じ個所を再び折ったらしい。僕より１歳年下で、見るからに快活な方だから、骨折の理由を知りたくなった。疲労骨折には少し早すぎるし、そういったことが起こりうるような体型でもないので「どうして背骨なんか折ったの？」と単刀直入に尋ねてみた。
するととても珍しい答えなのだが「二重飛びをしていたら急に背中が痛くなって、息も出来なくなった」と教えてくれた。
７０歳前の女性が二重飛びをする？素朴な疑問だが、やりかねない性格だ。ただし、もう僕らの世代は縦の圧力に耐えれるようにはなっていないと思う。余程筋肉を鍛えている方は、骨をそれらが補強するから若い人と同じようなこともできるかもしれないが、普通の人間は、もはや大黒柱だけで立っていて、壁も細い柱もない状態だ。それでは重力にあがなうことはできない。
飛ぶ、走る、落ちる、重いものを持つ・・・おそらくこれらの動作はかなりの負荷を伴うから骨まで傷つけてしまう。僕らにはご法度なのだ。
顔をしかめて薬ができるのを待つ姿を見て、縦の圧力についてミニ抗議をした後、優しくかけた言葉。「自爆テロじゃ！」
皆さん、僕も含めて「無理は無理」
