先人

 その能力に驚くべきか、几帳面さに驚くべきか。はたまた自分の化石ぶりを嘆くべきか。
 今日の午後漢方相談に来てくれた方は、僕に手渡すべき情報をパソコンで票にしてくれていた。時系列でこの数年の症状を記し、病院の診断や治療薬の変遷も一目瞭然で分かるように出来上がっていた。そして自由に書き込む欄には、自分なりに調べて、あてはまりそうな病名を記入していた。
 忙しくて効率が優先される薬局ならとてもありがたいのだろうが、残念ながら僕の薬局は時間だけは十分ある。さながら時計の針は永遠の道草を食っているようだ。ただ、男性の病気を克服したい希望は十分伝わってきて、いくつもの問診の後狙いを定めて漢方薬を作った。
 結局、男性がそこまでしたのは、あるトラブルで受診したのに、特別な所見はなく、飲んでもいいし飲まなくてもいいしと言って出してくれた薬が、一向に役に立ってくれていないように思えたからだ。同じ轍を踏まないように僕のところに来るときに備えたってことだ。
 男性の不調を治したい気持ちが、そうした表を作らせたのだろうが、もともとその技術を持っていないと実現はできない。そこでカルテに氏名や生年月日を書き込んでもらうときに興味を持って見てみるとなんと85歳だった。
 隣の町から自分で車を運転してやってきて、パソコンで打ち出した表を見せ、自分なりの所見を述べる。丁寧な言葉と知性。老いを十分にカバーしている。僕が見つけた不調の原因こそがまさに血管の老いだったのだが、お医者さんも見逃すくらい知的だ。
 少し先を行く多くの先人たちは、希望でもあり哀しみでもある。

 

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