伝搬

 そうかこういう種類のモチベーションもあるのだ。おかげで実力を発揮できたのかもしれない。
 2週間前に、保護犬を連れてきた親子がいて、漢方薬を効かすことができればまたワンちゃんに会えるなと思った瞬間、「次回からはお父さんが取りに来る」と言われて内心ショックだったのだが、今日前回と同じ親子で、もちろんワンちゃんと一緒に漢方薬を取りに来てくれた。
 依頼された不快症状の何割かが改善して、飼い主も明るくなり、前回聞けなかったワンちゃんの話なども聞けた。そして何よりの僕の目的の、ワンちゃんとの再会もかなった。
 ワンちゃんは、まっすぐに僕がいる薬局の奥までやってくると、僕が差し出した手に一瞬鼻を付けた後すぐに背中を向けて、僕に撫でるように催促した。当然僕は背中とお尻のあたりを撫でる。今日発見したのだが、お尻のあたりを撫でられるのが特に好きみたいだ。だからすぐに背中を見せるのだ。飼い主に尋ねるとやはりそうで、一番喜ぶ箇所らしい。 見ず知らずの、それもかなり大型のワンちゃんが、体を密着してくれるのはかなりの感激もの。相変わらずきれいなサラサラの毛で、大切にされているのが伝わってくる。
 聞けばこのワンちゃんの前の犬は、河原で衰弱しているのを見つけ連れて帰って飼っていたらしい。老犬で癌があって1年半しか生きなかったそうだが、その話を聞いていた娘が「優しい人だな」と感心していた。
 人間でも犬でも、大切にされているのを垣間見るのは感動ものだ。喜びが伝搬する。穏やかで、おとなしく、大きくしっぽを振り喜ぶ姿を見るのは、最高の癒し。このワンちゃんが殺される姿など想像したくない。会う人みんな癒してしまいそうなのに。殺伐としたコロナ禍の日常に南の風が吹く。

 

https://www.youtube.com/watch?v=DgaNNJ-4ZT4