予習

 見かけによらぬものだ。人は色々な側面を持っていて面白い。  この若い女性は、もう10年近く漢方薬での付き合いがある。だから彼女の趣味くらいは知っていて、パンクロックのコンサートに行くことだ(と思う)と言うのはこのパンクロックと言うのが僕にはまだ未体験ゾーンで、断言できないが、恐らく合っている。もう10年くらい前に聞いた趣味だから、内部文書は残っていないが、およそは記憶している。東大を出て高級官僚になった奴等よりよほど僕のほうが記憶力がいい。ああ、あれは忘れたのではなく根っから腐った人間達の計算づくの嘘か。  その彼女にいつものように「コンサート行っている?」と尋ねると、言っていると答えて僕にも同じ事を聞き返してきた。僕も何となく音楽好きで通っているので尋ねられたのだと思う。そこで当面の予定を話したのだが、その中で彼女が意外にも食いついてきたのが、9月に福山である歌舞伎の公演だった。たて続けに、誰が出演するのか、演目、何のための公演(こんな単語で尋ねられたのではない。専門用語みたいだったので記憶できなかった)か尋ねられた。ほとんど答えることができなかったので、パンフレットを持ち出して見せた。すると出演者を見て何か言っていた。これもまた残念ながら専門用語らしくて記憶できなかった。僕では相手にならないので傍にいた妻となにやら話していたが、そこで彼女の意外な顔を見た。  彼女は学生時代、大阪の南座?で照明係りをしていた友人にしばしば誘われてただで見に行っていたそうだ。客席で見ていたのか照明係りの傍で見ていたのか分からないが、「歌舞伎は面白いですよ」と意外な評価をした。僕が「かの国の女性がどうしても帰国前に歌舞伎を見たいというから連れて行くだけで、僕は3時間何をして過ごそうか迷っている」と言ったのに答えたのが「面白い」だった。そう言う評価が若者から出てきたのが意外だった。そして次のような助言もしてくれた「あらすじを読んで行っていたら話がよくわかって面白いですよ」  そうか、歌舞伎は予習が必要なのか!