羨望

 羨ましい、本当に羨ましい。2つの意味で。  その1つは、そんなに見事に効き、そんなに頼りにされる薬と言うこと。名前の通り「そらなっクス」1錠あげるとくすっと笑いがこぼれる。さっきまで沈んで不安一杯の人を劇的に笑顔に出来る薬。30分あれば落ち着くから手放せないそうだ。10年前に心療内科にかかったらすぐに出された薬で、以来欠かせない存在になった。飲めば30分で落ち着くから安心して不安症のままでおられる。そんなに劇的に効いてくれる薬だから、逆に体の中から切れたらすぐに分かる。心臓がバクバクし手が震えてくるのだそうだ。飲めばこの症状もまたすぐに消えるからありがたやありがたや。  もう1つの羨ましいは、患者さんを虜にできること。一生この薬から離れられないから、一生患者さんになってくれる。こんなにありがたいことはない。薬局の場合患者さんを治さない限り2度と来てくれない。治せば当然患者でなくなるから来なくなるが、他の病気になったときに嘗て治してあげていたことが実績になる再びやってきてくれる。薬局は保険診療と違って現金だから、患者さんも効かなかったら来てくれない。常に真剣勝負で効かせ続けなければ成り立たないのだ。  もう10年も飲んでいると言うことは、10年も治っていないということなので、普通ならよりよい治療を求めてリサーチする。ところが効かなくても30分も経てば落ち着くのだから、次第にそれに依存するようになる。病院でもらうから薬だが、道端でこれだけ効く薬を譲ってもらったら薬物だ。多くの人が薬物のような薬を飲まされ、薬のような薬物を飲まされている。