餌食

 朝、一度目が冷めるとそれ以上布団の中にいる事ができない僕の習性が役に立った。  いつものようにマッサージ器の上で新聞をくまなく読んでおもむろに家を出た。裏の出入り口から路地を通り薬局のシャッターの前を通りかかった時に、駐車場のコンクリートの上に小さな塊があるのが目に入った。ハリネズミを小さく小さくしたような鳥が地面にうずくまっていた。顔を近づけるとかすかに動いたから生きている。どちらかと言うとすずめのような体型をしたその子ツバメは、真上にある巣から落ちたのだろう。カラス避けの為に、巣の下に大きなボードをぶら下げているのだが、巣からそのボードに落ち、そのボードから地面に落ちたことになる。まだ飛べないけれど、落ちるときには何か鳥らしいことが出来て衝撃を減らすことができたのか、元々軽くて衝撃が少ないのか分からないが、怪我をしているようには見えなかった。  人間の臭いがする子ツバメに親は餌をやらないと聞いた事があるから、何とかすばやく巣に戻していあらなければならないと思った。そこで倉庫に行って脚立を用意し、ゴム手袋をはいた。恐らくこれで人間の臭いは付かないのではないか。子ツバメはとても軽くて、気をつけなければ傷つけてしまいそうだった。ただ、巨大な生物の接近で諦めたのか、とてもおとなしかった。そのおかげでとりあえずボードまでは簡単に戻すことができた。そこから直接巣に戻そうとしたのだが、子ツバメの足が、ボードの割れ目をしっかりとつかみ、少しの力ではボードから離す事ができなくなった。釣り針くらいの細い足でしっかりとボードをつかんでいる。力を入れて離そうとしたらそれこそ針のような細い足を折ってしまうのではないかと心配になった。そこで敢えて無理をしないで時々隙を突くように持ち上げてみた。挑戦すること数度で不意を突かれたのか、簡単に足が離れた。そこで巣に戻してやることができた。  あれから数日が経ったが、落ちた子ツバメも従来どおり母親の愛情を受けることができている。あの時僕が少し遅く散歩に出かけたら、カラスか蛇にあの子ツバメはやられていたかもしれない。蛇はまだ経験がないが、カラスとは長年バトルを繰り返してきたから、この期に及んで餌食にはさせたくない。判官びいきではないが、人は本能的に弱いものの立場に立つものだ。痔見ん党と金平糖と異信の党以外は。