自尊心

 一応白衣も着ているし、薬局も都会のものに比べれば大きいから、それはないだろう、と言うのは僕の勝手な思い込みで、基本見掛けはみすぼらしいのかもしれない。かの国の女性が帰国するときに「オトウサン、そのままの格好でキテクダサイ 安全ですから」と太鼓判を押してくれるくらいみすぼらしいが、それにしても・・・  リクルート姿の延長かと思えるような青年が薬局に入ってきた。少しだけ物色した後、ぎこちなく黒いかばんからなにやら取り出した。1枚のパンフレットだったのだが、タイトルが彼の説明より早く目に入ってきた。「毎月1万円 積み立て・・・」僕がそのパンフレットを受け取ったから、彼は警戒心を少し解いて説明を始めた。なんでも、毎月1万円を積み立てて毎年どこかに旅行に行くというものだ。信用金庫が旅行も計画してくれるらしい。旅行に関して僕が何も興味を示さなかったからか、旅行が嫌いな人には満期の金額を支払うと言った。で、5年間で利子がどのくらいつくのかと思ったらなんと驚くことなかれ、508円だそうだ。毎月1万円積み立てて60回。利子が508円。経済には全く疎いから、低金利などと言う言葉にも関心がなかったが目の前に突きつけられるとリアルだ。一所懸命積み立てた結果が、ユンケル1本飲んでしまえばそれでチャラ。ラーメン1杯でチャラ。駐車場に1時間半止めればチャラ。  空耳だったのかもしれないが「せめて1万円くらいなら・・・」と聞こえたのは、新人ならではの押しの弱さか、はたまた僕を値踏みした結果か。「明日までに積み立ててくれる人をとらなければならないんで焦っているんです」と言われても、僕には関係ない。せめて僕の自尊心をくすぐってくれていれば考えないこともなかったが、毎月1万円ではさすがに僕も。せめて毎月2万円くらいを言ってくれたら・・・