好奇心

 面白いものだ。本当の家族と一緒に食卓を囲むときは沈黙が支配し、テレビ無しではとても食事が喉を通るようなことはなかった。ところがかの国の次女三女と同居するようになって、テレビが必要なくなった。丁度壊れたのもあるが、むしろ会話の邪魔をするノイズでしかなくなった。以前は会える時間が限られていたので、用事が優先されていたが、今は有り余るほど時間があるので話す内容は多岐に渡る。昨夜も面白い話を食事中にしてくれた。  「子供の時から、皆が言っていた」こういった場合の皆は怪しい。皆ではなく「ある人が」と言うのが正しいのだろうが、つい力が入ると皆を使ってしまう。だから僕は「こういう話を聞いたことがある」程度で理解することにしている。  世界で一番幸せなのは「ヨーロッパ風の家に住み、中国料理を食べ、日本女性と結婚すること」なのだそうだ。かの国でそういい聞かされていたらしい。二人が敢えてこの話を持ち出したのは、一緒に台所にいても僕だけテーブルの前に腰掛け、手持ち無沙汰に料理が出来るのを待っているからだ。もう1週間近く一緒に暮らしてみると目にあまり出したのかもしれない。それで皮肉を込めて、又妻の味方だと言わんばかりにそんな話を持ち出したのだろう。ところが僕はそんなことで自分の流儀を変える様な人間ではない。「それならお父さんは幸せじゃ。鉄筋コンクリートの家に住み、ラーメンを食べて、日本人と結婚しているから。お父さんはこの幸せを壊さないようにするわ」と若干の居心地の悪さはあるが居直った。するとかの国では男女が家事を分担するなどの習慣を話し始めた。何故その事に拘るのか分からないが、彼女達にとっては異様な光景なのだろう。いや、許せない光景なのだろうか。そこでいたずらのつもりで、妻が作りかけていたインスタントコーヒーに湯を注いでみた。すると二人が拍手をした。おだてられて木に登るタイプではないが、所変われば・・・を日々経験する羽目になるスリルを、好奇心を持って楽しんでみようと思う。