虚勢

 発病?した頃は少年だった。今は青年だ。その間、どのくらい苦しんだのか分からないが、少なくともお世話させてもらい始めて2年で「人として、ちゃんと生きていく」と言ってくれた。もちろん僕は単なる薬剤師だから、彼がどのような人生を選択しようが僕の責任範囲外だが、何年も苦痛を抱えて暮らしていた青年が、そこから脱出できそうになったことに貢献できたことは嬉しい。家から出ることが出来なかった、上手く自分の苦痛を訴えることが出来なかった、まるで孤軍奮闘、いや奮闘ではない、孤立無援の状態から、人様のことまで考えられるようになったのだから、周囲の人が待つということがどれだけ大切かがよくわかる。恐らく彼の回復を待つ人がいなかったのだと思う。  それにしても人間の治癒力は神の存在さえ思わせるほど偉大だ。よくもこんなに治してくれると驚きだ。人類が勝ち取ったのか、与えられたのか知らないが、それがあるからこその命だ。何回心身に不都合を生じても、その都度修繕してくれるのだからありがたいものだ。死に病は人生で一度、その明快さがいい。だから若者は、偉大な力で守られていると思って欲しい。病気など跳ね返す力が十二分に備わっているのだ。ちょっとしたトラブルで病気などと考えないで。病気になってもらったら潤う人の餌食にならないで。自分を信じて、胡散臭い人や物を信じないで。  僕の薬局は田舎にあるのに若者が結構来てくれる。僕が彼らの父親くらいの年齢からかもしれないが、人生の素晴らしさを少し、人生のつまらなさを多く語れるからかもしれない。多くを手に入れなくたって、多くを失わなければ人生はまずまずだと語れるからかもしれない。虚勢を張って自滅するより、虚勢も張れずに己から解放されているほうが楽だと語れるからかもしれない。  みんな力んで何処に行く。