経験則

 僕の40年間に渡る薬剤師生活の経験則を覆すことが牛窓で起こっている。昨日そのことを聞いて珍しい現象だなと思った。  あるお母さんがヤマト薬局特製の風邪薬を買いに来た。いつもその薬で簡単に風邪を治してしまう人だから別段ごく普通の光景だった。ところがそのお母さんが「息子にうつしたら困るから早めに飲みます。今日、中学校では3年生がインフルエンザのために学年閉鎖になったんです。明日が入学試験なのに」と言った。ここで「3年生が」と「明日入学試験」が引っかかった。普通、インフルエンザが流行していても緊張状態にある人はうつされない。だからこの時期学年閉鎖が起こっても3年生が含まれることはまずない。ところが今回は3年生だけが閉鎖らしい。そのことを言うとそのお母さんも「そうなんです」とやはり怪訝な表情をした。  珍しいこともあるものだと、頭の隅に引っかかったまま仕事をしていたら、夕方違う親がやってきた。そこでその疑問をぶつけてみると、なんとインフルエンザにかかった子達は、推薦入試で合格した子供達ばかりらしい。合格してしまったものだから緊張感が取れて、ウイルスを体に導きいれてしまったみたいだ。さすがに、受験を控えている生徒はインフルエンザにかかっていないらしい。職業柄と薬局があるのが中学校の前と言う立地のせいで、中学校の動静はすぐに分かる。30年以上結果的にウォッチしてきたから、もし今回のようなことが起こったなら、緊張感の欠如だと一石ぶたなければならなかったが、合格が決まった生徒達だけだと聞いて安心した。いや経験則がまだ生きていることで面目を保った。  僕ら一般人の経験則は汚い言葉で言うと「金にならない」が身を守ることは出来る。例えば「ちょっとしたことを言われてむきになって言い返す男はよほど気が小さい。だから常にいきがっていないとバランスが取れない。そんなお坊ちゃまは、おじい様の夢をかなえるために、北の将軍様のように、プッチンプリンのように、臭菌ペッのように振舞う」くらいは、手に取るように分かる。