いとうたかお

 どうもこの歌手とは痛みの関係らしい。以前訪ねて来てくれたとき、カウンター越しに話をしていて、背中の痛みが見る見るうちに強くなったのを覚えている。それが僕が初めて経験した頚椎ヘルニアの痛みだった。その後結構な時間(2週間以上)をかけてやっと脱出した苦い思い出だ。  今日何年ぶりかに夕方電話をくれた。僕はぎっくり腰で2階で休んでいたから、呼ばれても急には降りれなかった。だからこちらから電話を掛けなおすことにした。階段を下りながら、頚椎ヘルニアの痛みがフラッシュバックして、腰の痛みが増したような気がした。ただ、電話の内容はありがたいものだった。5月に牛窓の喫茶店でライブを行うことになったみたいだ。僕が学生時代雲の上の存在だった人で、今でも活躍しているみたいだが、恐らく今の若者にも共感してもらえる歌だと思う。むしろ彼の歌に接して、毎日を思惟のうちに暮らして欲しいと思ったりする。僕らは当時何も持ってはいなかったが、力には徹底的に反抗した。それを持っている奴等の胡散臭さにとても敏感だった。歌手達も、歌詞に思想や想いを込めて歌っていた。現代の低級さにはあきれるが、諦めたらあいつらの思う壺だ。  誰を連れて行こうか、或いは1人思い出に浸ろうかと思案しているうちに、少し腰の痛みが減ったような気がして今階下に降りてきてこうして書いている。昨日から又ぶり返したが、それが昨夜階下に降りてきて長い時間体を冷やしたことによるだろうことは分かっている。どうも懲りない面々の仲間に入りかけている。意外と頑固なのかもしれない。病気もあいつらを許せないのも。