神の手

 「神の手と呼ばずになんと呼ぶだろう」なんて言うと、テレビの低俗な番組のタイトルのようだが、そう思えることが今日もあった。僕がもっとも苦手な分野だからそこまで尊敬するのはいつものことだが、朝から挑戦し続けてくれた姪が、思わず拍手をしたのだからやはり「神の手」なのだろう。  新年早々、妻のパソコンがダウンした。開けないのだ。今日から出勤した姪に頼んで回復させようとした。僕ら夫婦は使うこと以外には何も分からないから、姪の若さで救われたことは多い。姪はパソコンの製造会社に電話して、電話で助言を仰ぎながら回復作業を行ってくれた。故障相談の電話番号に電話しても、一度目は30分、二度目は1時間以上待たされた。それでも姪は根気強く修復作業を行ってくれた。しかし、夕方にはついに諦めた。その進捗状況を逐次漢方問屋の専務さんに連絡していた。  姪が諦めた頃突然専務さんがやってきた。岡山市内からだから40分くらいはかかるのだが、事の重大さを理解してくれたのだろう。経理関係は全部パソコンでやっていたから使えなければお手上げだ。  専務さんはやってきてから、姪に今日の流れについて質問をしていた。そしておもむろにパソコンの前に腰掛けると作業を始めた。その間僕は漢方薬を作っていたからその場所を離れていたが、ある時拍手が聞こえてきた。正にパソコンの画面に懐かしいいつもの画像が映し出された瞬間だったみたいだ。朝から6時間くらい懸命に取り組んで、結果を出すことが出来なかった姪にしてみれば驚愕なのだろう。これぞ神の手と思ったのは姪ではなくこの僕もだ。僕はその結果に、と言うのはメーカーの助言はデーターを取り出すから機械を送ってくださいとのことだったが、感激と言うよりも感謝の念が強かった。データを取り出す費用が5万円くらいと言われたことが問題ではなく、仕事が途切れることなく続けられることの価値が大きかったのだ。データを取り出すのに2週間かかると言うのは僕にはストレスだった。  専務さんにはもう何度助けられたか分からない。それに見合ったお返しができているのかわからない。ただ、漢方薬を供給してくれている問屋さんだから、僕が全うな仕事をして、それが問屋さんにも反映されればいいと思っている。田舎の薬局で問屋さんにとって、うまみは少ないかもしれないが、漢方治療の、あるいは薬局の評価を、お互いに努力してあげることは出来ると思っている。