逆境

Y君へ  あれは紀行文と呼ばれるものでしょうか。タイトルが「自転車に乗って」と言うものだったから、高田渡の唄についてのものかと思って読み始めたのですが、高山を訪れた方の一日が書かれていました。少しばかり高山の経験があるのですが、そんなもの役に立たないくらい新鮮で、ぐいぐいと連れ回させる、いや、もっと早く先に行きたいような気持ちで読ませてもらいました。話の内容は勿論ですが、紀行文など読んだ事がない僕には「上手いなあ」と言うのが一番の感想でした。紀行文なるものが出版のある分野を占めるのが分かったような気がします。  あの表紙の女性が誰で、あの男性が誰だかも分かりません。文章を書いた人?絵を書いた人?訪ねられた人?出版者?手作りを超えた手作りだから分からないのだと思います。分からなくてもいいし、分からないのがまたいいのでしょう。何事にも秘めたものがあるのは魅力ですから。  ただ僕と〇〇さんには秘めたものが、全くなかったのだと思います。当時青春真っ只中だからそんなものがあるほうが珍しいかもしれませんが、この年齢になっても全くない関係しか考えられません。当時も、その後お会いしていない長い時間も、そしてつい最近の再開も「裏表がない」心地よさの極地です。僕は家族も含めて、〇〇さんと△△さんの2人以外に、その関係を完成させられた人はいません。そうした人との時間の共有が5年間も濃密にあったからこそ、その後の生き方に後悔がないのだと思います。その生き方さえ維持していれば得ることも失うことも全部簡単に説明がついてしまうのです。僕は一見〇〇さんとは違った景色の中で生きたように他者からは見えるかもしれませんが、同じように自由に生きてこられたのではないかと思っています。裏表がなければ、自由でいられますから。  あなたもそうした人かもしれませんね。だからあなたが〇〇さんに吸いよせられたのだし、〇〇さんはいつもの〇〇さんでおられるのでしょうから。少し健康面は心配ですが(僕も同じようなものですが)あの独特の優しさは天然記念物です。岡山県オオサンショウウオみたいなものです。先輩をよろしくお願いします。僕も引退が見えてきたら高山くらいいけるのですが。  写真係と言いながら逆光なのでしょうか。すごい色ですね。でも記念になります。自分の写真なんかほとんど無いのですが、あれは記念にとっておきます。でもあなたや〇〇さんが逆光、いや逆境でなくてよかった。またいつか!

追伸 あなたの「自由さ」に驚いた息子は触発されたのでしょうか、あれから自転車ではなくゴムで出来たカヤックを買って海岸を走らせています。浮き輪みたいなおもちゃのようで怖いですが。せめてパンクしないものにして欲しかった。人生であれだけパンクしているのに。

大和