顔色

薬局の中に入ってきた瞬間に、尋常ではないことがすぐに分かった。今正に棺おけから抜け出てきたような顔色をしている。この顔色は亡くなった人以外に見ることはない。血の気が引いた・・・血色がない・・・要は極度の貧血と思われる。  町の用事でやってきたから、僕が立ち入ることではないが、あまりにも顔色が悪いので尋ねてみた。するとある病気で貧血を起こしているそうだ。本人も自分の病名を知らないらしくて、僕に上手くは伝えられないが、「もう数軒配り物をしなければならないが、ちょっと休ませて」と言った。正に息も絶え絶えだった。このまま倒れるのではないかと思うほどだった。  口元まで食べ物を持ってきても欲しくないから箸を置くらしい。ただあのアルコール入りの点滴はなぜか美味しく飲めるらしい。また、歩くのも心もとないのにパチンコには車を20分運転して行き、楽しむことも出来るらしい。勝手な病気に見えるが、勝手な生活が作っているのだから仕方がない。いわば確信犯だが、さすがにあれだけ体が重くなればこたえるのだろう、もう二度と酒もパチンコも・・・とは言わない。  夕食のときその話をしたら、息子は「大酒のみは、大きな赤血球が壊れるから貧血になる」と言っていた。そして「その叔父さんを車の中から見た。えらい色が白い叔父さんが歩いているなあと思った。車の中から見て病人だとわかるのだからよっぽどだ」とも言っていた。  なかなか個性的な男性で、僕はどちらかいうと癒されるタイプだ。万人受けはしないが、力まない生き方がなんとなく周辺を和ませる。ただ逝き急いでは欲しくない。本人にとって今更楽しいことが起こる予感はしないのだろうが、スローな話し方で癒される人は少なからずいると思う。敵意とか悪意とか、そんなものと縁遠い人が逝き急いではいけない。早く見送ってやりたい奴等がのうのうと長生きしているのだから。