善行

 凡人の悲しいところで、いくらいい気付きがあっても、それを何かにまとめて発表することが出来ない。だから往々にして単なる出来事でしかなくなってしまう。以下に書かれた論文の言わんとするところは僕はとうに気がついていた。何の縁が重なっているのか分からないが、僕のところには体調不良よりも心調不良の患者さんが多い。当然薬局だから自分で死を選ぶような重篤な患者さんはいないが、暮らしにくさと毎日向かい合って生活の質をかなり落としている人が多い。そんな方に漢方薬を作ってお世話するのだが、多くの方と接して、気がついている事がある。それはそういった方の多くが、人様に何かしてあげた、してあげている、してあげようとする経験がほとんどないことだ。ボランティアなどと言う言葉を使わなくてすむような些細なことですら、少なくとも他人を優先した経験がかなり少ないことに気がついている。人様を喜ばして後自分が喜ぶ、人様を笑わせて後自分が笑う、これは自分が喜ぶより、笑うより、はるかに大きな喜びになり、笑いになる。このことは経験的によくわかるから、薬局で向かい合うときは大声で笑ってもらえるようにする。そうすると心を開いて、僕が漢方薬を作るときの根拠となるべく情報を頂ける。情報なくして効く薬は作れないから、僕にとっては楽しんで問診をすることは必須なのだ。その上、患者さんが誰かの役に立つべく行動を起こしている人なら断然治りやすい。  今日も40代の女性の方に「欲の塊じゃろうが!」と言ったらとても受けていた。「そのとおりです」と笑いながら白状できるその女性は、もう社会不安障害の9割は治ってもらっている。あの臆病だった人がと思えるほど変わった。ぜひ素人の僕の言葉を信じられない人は下記の文章に目を通してみて欲しい。

「他人との交流に脅えたり、不安を感じたりする社交不安障害の患者は、親切行為を行うことによって、他人とリラックスして交流しやすくなることがわかった。カナダ、サイモン・フレイザー大学(バーナビー)のJennifer Trew氏らの4週間にわたる研究で、論文は「Motivation and Emotion」6月5日号に掲載された。親切行為は幸福感を高め、肯定的な世界観を養う可能性があり、次第に肯定的な交流を助長することで、患者が社会生活に適合しやすくなるという。Trew氏は「善行は社会的不安の程度を低減することに役立つ。それにより患者は、社交を避けたいと思うことが少なくなる」と述べている。同氏らは、高度の社会不安をもつ学部生115人を3群に分けた。第1群には、慈善的寄付などの親切行為をしてもらった。第2群には社会的交流をしてもらったが、善行の指示はしなかった。第3群には毎日起きたことを記録してもらったが、他人との交流について特に指示をしなかった。その結果、親切行為をした群で、社会的交流を避けたいという気持ちが最も減少した。特に、介入の初期には大きく改善していた。「善行は、拒絶されることへの不安と恐れを緩和し、社交不安障害の患者が他者と交流することを助ける貴重なツールだ。善行を含んだ治療戦略により、患者の生活の質を改善できる」とTrew氏らは述べている。 [2015年07月10日/HealthDayNews]Copyright (c) 2015 HealthDay. All rights