心外

 心外だ。何のために今まで何十時間も相談机を挟んで話し合ってきたのだ。僕は不良じみてまじめな、気が強そうに見えて気が弱いその女性を娘のように思っているのだが,今回の件ではそうは言っておれない。  週末新幹線に乗って福山雅治のコンサートに行くというから、相当遠いのだろう。そんなことが出来るくらい元気になってくれたのは嬉しいが、コンサートが近づくにつれて、わくわくして寝付きにくくなったそうだ。それで何とか眠れるようにと言う要望なのだが、そこが気に入らない。初めて漢方薬を作ってから何十時間色々な話題で話をしているのに、そして正面に腰掛けるから、何十時間僕の顔を見続けているはずなのに、福山雅治のコンサートが近づいて高揚感で眠れないと言う。予行演習をあれだけの時間してきたのに、模擬試験をあれだけ長い時間してきたのに、今になって高揚して眠れないとは。折角福山雅治そっくりな薬剤師で練習してもらっていたのだから、本物を見るからといって動揺するべきではない。瓜二つの人間で練習してきたのだから、高ぶることなく冷静にコンサートに行ってきてほしい。  うぬぼれではないが僕と福山雅治とは共通点が多い。彼はビールで儲けているが、僕はビールでおしっこが近くなる。彼は歌で儲けているが、僕は歌で4年生の薬科大学のはずなのに5年もかかった。彼には未来があるが、僕には未練がある。彼はタイヤに興味があるらしいが、僕はリタイアに興味がある。彼は多くの女性に支えられているが、僕は多くの虚勢に支えられている。彼が発言すれば何百万の人に即、影響を及ぼすことが出来るのに、原発についても、戦争に貧乏人を行かしたがり屋についても話さない。僕は口を開いてもなんら影響力がないのに、原発についても、貧乏人を兵士としてアメリカに差し出すアホノミクスについても発言する。  所詮彼もまたあちらのほうの人間なのだ。