学歴

〇〇さんへ  僕が知らなかっただけで、あなたは僕のブログを読んでいてくれたのですね。さすがは日本語を勉強していた人だけありますね。今朝目覚めて、あなたの行動を全てを説明できる言葉を思いついたのです。帰国にあたって、仕事が出来ないと卑下していたあなたを、僕が学生時代にしでかしたエピソードを引用して気にしないでと言いましたが、正に今朝思いついた言葉をあなたに伝えるべきだと思ったので、あなたがこの文章も読んでくれると期待して、その一言を伝えます。この言葉を届けることが出来たら、僕は後ろ髪をひかれることなく、多くの患者さんのお役に立てるよう頑張れるし、あなたも日本で体験した負の経験を笑って語れるものに昇華できると思います。 (エピソード・・・大学時代、僕は野球部に所属していた。部費集めのために夏休みグリコのアイスクリーム工場へ部員全員が深夜アルバイトに行かされた。大音量の音楽で眠れないようにされながら、洪水のようにアイスクリームが流れてきて、それを箱詰めにする仕事だった。いやでいやでたまらなかったが、仕方ないと諦めて、機械になった。体温が36度の機械だ。朝までの間に一度だけ休憩がある。15分くらいだったと思う。数日何とかもったが、ある日その15分の間横になったら、全員が眠り込んでしまった。そしてその朝、工場の人が起こしに来て、日本酒の1升ビンをくれ「もう来てくれなくていいです」と言われた。立ったまま電車で暴睡したのはその時だ)  あなたが今回、退散したのは、あの時の僕たちと同じなのだ。僕は学生時代決して勉強などはしなかったが、それでも薬大生だったのだ。それも当時は競争率が20数倍の難関校だったのでそれなりのプライドと言うものを持っていたのかもしれない。だから、アイスクリームの箱詰めは合っていなかったのだ。もともと薬剤師が血沸き肉踊らせる仕事ではなかったのだ。だからモチベーションなどと言うものは全くなく、地獄の、まるで拷問のような時間だったのだ。  あなたも同じだったのです。あなたの国で大学の経済学部を卒業し、その上専門学校で日本語を習得したのですから、あなたが工場で他の人に混ざって、単純な手作業をすることに耐えられなかったのは当たり前です。そのことを悔やむ必要は全くありません。あなたが単に通訳としてだけ会社で存在できたなら、こんなに心も体も傷めはしなかったでしょう。工場の方針とすれ違っただけなのです。だからこの1年を悔やんだりしないで。あまり好きな言葉ではありませんが、あなたを救いたいがためだけに書きますね。あなたを苦しめたのはあなたの能力や忍耐不足ではありません。「学歴」が邪魔をしたのです。ぜひこのことにあなたも気がついて、母国で再起してください。そして僕はいつでもあなたをこの国に招いて、あなたを娘と同じ愛情で包みたいと思います。ぜひ次回は自由に、建設的に僕の住む町で学び働いてください。連絡を待っていますよ。  僕も妻も、昨夜、涙のあなたを抱きしめたことを忘れませんよ。日本にいればあなたは僕たちの娘です。大切な大切な娘です。本当はあなたが苦しくて仕方なかったときに、僕達の胸に飛び込んできて欲しかった。いつか再会の喜びで抱き合えることを願っています。                                            日本の お父さん