実店舗

 百聞は一見にしかず。ホームページは一味にしかず。ホームページは一歩にしかず。ホームページは十分(10分)にしかず。ホームページは一言にしかず。  かの国の二人の青年がアルバイトを探していて、無料で配られる情報誌を見せて「コレ、ドウデスカ?」と尋ねた。自給が900円に目を奪われたのだろうが、全国チェーンの居酒屋で夜の12時まで働くような仕事内容だった。職種も時間も自分の娘にはさせられないような内容だったから、気乗りしなくてのびのびにしていたら、しつこく尋ねられるようになった。そこで仕方なく実店舗を調べることにして、その二人を誘って昼食を食べに行ってみた。前もってホームページでおよその事を調べていたが、それはそれは美味しそうな料理が並んでいて、働いている人の楽しげなコメントがちりばめられていた。ところがところが・・・  かなりの料理の種類がホームページにも載っていたが、テーブルに備え付けのメニューにもたくさんの料理が載っていた。どれも美味しそうで、かの国の青年も僕も刺身料理を注文した。かの国の青年も日本に来てから刺身を食べられるようになったのはいいが、高いのでめったに口にはできない。そこで僕と一緒のときによく注文する。料理が運ばれてくるのを楽しみに待っていたのだが、10分たっても20分たっても運ばれてこない。僕らより先に席に着いていたグループが怒り出したから、覚悟して待ったが30分近かったのではないかと思う。案の定運ばれてきた刺身を、牛窓の肉がしまった魚の刺身を食べつけている僕ではなく、かの国の青年さえが残してしまった。あれだけ楽しみにしていたのに、何か不自然だったのだろう。当然、味噌汁も冷めていた。そもそも店に一歩足を踏み入れたときからいやな予感がしていた。受付に誰もいないのだ。中が暗くてよく見えなかったから、ためらっていたら若い店員が出てきた。広いカウンターに数人、奥の座敷に一グループ客がいたが、広すぎて何処に席をとったらいいのかわからなかった。店員に尋ねたが、なんだか答えが聞き取りにくくて、座敷の一角に席を取った。するとそこはダメと言われて移動した。移動したところも理由を説明されないままだめだと言われ再び移動した。結局始まりがこの程度だからその後は不快感だけが支配した。もし仕事が決まればこの店でどのようなことをするべきか二人の青年はまるで覗き見でもするように彼らの動きを見ていたが、テーブル越しに僕に顔を近づけて、覚えたての日本語を使った。「オトウサン コノミセ サイショデ サイゴ」