胃カメラ

 取るに足らないことかもしれないが、余り知られていないことだろうから披露する。とにかく僕は、いや妻も驚いた。  いつものように僕は早く起きて電気按摩器に身をゆだねて新聞を読んでいた。隣の台所でいつもなら息子が朝ごはんを食べ始めるのだが、今日は胃カメラを飲むから朝食は要らないと妻に言っているのが聞こえた。で、話はあっという間に飛んで夕食になる。  胃カメラを誰にしてもらったのか気になったので「今日は誰に胃カメラをやってもらったの?」と尋ねると「自分でやった」と答えた。この答えは予想しようがない。自分で胃カメラを飲むなんて想像できないし、想像したら笑ってしまいそうだ。周りに人がいたら何をしているのだろうかと思うだろう。街中でやればまるで大道芸だ。投げ銭でも飛んできそうだ。だが息子はまじめな顔で言う。嘗て、歯医者さんにもし虫歯になったらどうするのと尋ねたことがある。信頼している友人にしてもらうと教えてもらった。さすがに自分では治すことができないんだと、感心した記憶がある。ただ今日の「自分でした」はかなりのインパクトがあった。「きれいだった?」と尋ねると鸚鵡返しで「綺麗だった」と答えた。こちらの興味とは裏腹に、答えるのも面倒くさそうだった。  医者を主人公にしたテレビドラマは沢山あるが、こうした不恰好な場面をもっとちりばめると面白いかもしれない。いや今でも面白いのか。僕が見ないだけだ。