単刀直入

 あまり岡山県から出たことがない女性が、紙切れに大阪市の、とある住所を書いてきて、行き方を教えてくれと頼まれた。 昔から僕の薬局をしばしば利用してくれる人だがら、そしてその割には生活習慣が極端に悪い人だから、行き方より、生き方を教えてあげようかと提案したが、まったく受けなかった。  9月のある日、そこの場所に用事があるらしい。夕方の用事らしいから泊まるところも探して欲しいと頼まれた。まったくインターネットなどしない人だから、僕のレベルのインターネットでも役に立てるらしい。  なんでも抽選に当たったザイルを買いに行くらしい。お子さんと一緒に行くらしいが、色白でスリムなその女性が山登りをするとは驚いた。そんな話は過去聞いたことがなかったが、見るからに身軽そうだから、山登りにはうってつけなのかもしれない。薬剤師的に見れば、筋肉があまりなさそうだから、冬山登山はどうかと思うが。  ユーチューブで検索するとその場所は京セラドームだった。岡山県でも山登りの道具を売っているスポーツ店くらいありそうだが、やはり規模が違うのだろう。あの広いドームの中が山登りのためのイベント一色に染まれば、華やかだろう。山ガールと言う言葉ができているくらいだから、女性客も多いのだろう。  会場が京セラドームと分かったから、京セラド-ムのホームページを開けば、アクセス方法が分かるのでそこを開いた。案の定、いくつかのアクセス方法を書いてくれていたが、僕でも難しそうに見えたので、ザイルを買うためにわざわざ行かなくてもいいのではないのと提案してみた。すると「せっかく、抽選に当たったのに、もったいないじゃろう、めったに当たるもんじゃないんよ」と完全に提案は却下された。どうしてザイルごときで抽選しなければならないのかよくわからなかったが、ホームページで当日のイベント情報を調べて分かった。なんと入場料が一人12000円なのだ。二人で24000円、新幹線代が2万円、ホテル代が16000円、締めて6万円がザイル1本のために消えることになる。もっとも他人が介入する権利はないし、そんな野暮なことはしない。でも、そこまでして、ザイルのために大阪まで行くのか知りたかったから「そんなにいいの?」と単刀直入に尋ねてみた。すると高揚した表情で「娘のほうがファンなんじゃけど、実際の舞台はすごいらしいよ。エグザイルは徹底して楽しませてくれるらしんよ」と教えてくれた。何?ザイルではない?まるでネイティブの発音のように最初のエグの音を消すからザイルと間違えたではないの。