入場券

近くに島がないところを走っているときは、ゆっくりとしたスピード、まるで人間が歩いているのと変わらないのではと思っていたが、いざ港に入ってみると結構なスピードだったことに気がつく。比べるものがないところでは、実際を知ることは意外と難しい。僕が宇高航路で一番好きなのは、まさに高松のビル群が間近に迫ったときだ。港に入る前辺りだろうか。今日もかの国の女性を7人連れて四国に渡ったのだが、なんとなく一人で風景を楽しんだ。何から発想したのかわからないがデッキで景色を眺めながら、人生なんて、ふと上陸した島のようなものだと感じた。無限の時間の中で瞬きするほどの瞬間、この世に顔を覗けただけのような気がした。本来は無限の中の無の存在でしかないのだ。だからこの一瞬なんてほとんど意味を持たず、嘆いたり悲しんだりしなくてもいいのではないかと思った。今日の高松行きは、自衛隊のコンサートに応募して当選したから、ぎりぎりいっぱいの8枚の入場券をもって、穴吹ホールとやらへ行った。例の三宅由佳莉さんは出演しなかったが、僕ら素人には十分すぎるくらい上手で、かの国の女性たちも心から楽しんでくれた。ちょうど巷では自衛隊をめぐって胡散臭い、きな臭い話題で持ちきりだが、演奏している彼らや、ホールでとても丁寧に応対してくれた自衛官を見ていて、アホノ何とかに殺されないでくれと何度も思った。守るべきは不平も言わずに、黙々と働いている多くの国民で、決して、何様かと思わせるように反り返ったやつらではない。殺さないで、殺されないでと、演奏を聴きながら思っていた。