喝破

・・・雪は14日朝から積もり始め、翌朝には130センチ。例年にない積雪量だったが、孤立した5日間の生活を尋ねると「何ともねえ」。市街地から離れているため、多くの家は普段から一度の外出で大量の食材を買い、食料は十分。千島さん宅に血圧の薬は来月分まであり、灯油もドラム缶1缶分。「あと10日孤立しても平気だ。この辺りで食うに困ってるのはサルぐれえだ」。車庫は雪の重みで傾いたが、軽トラックと軽乗用車が柱代わりに崩壊を食い止めた・・・  「サルぐれえだ」に思わず吹き出した。仕事前に読めたおかげで今日は爽快な一日になった。見ず知らずのおばあさんに感謝だ。恐らく僕と同じようにパソコンの前で吹き出した人が沢山いたのではないか。山間の限界集落みたいな所なのだろうが、そこに根を張って生きてきた人達の力強さを感じるとともに、力みのない生き方に癒される。能力もないのに何かが出来るかもしれないと、漠然と夢想した青年時代、しかし結局は努力もせずにその時もその後も生きてきたけれど、今となっては、人生ってそんなに力んで大きなものや多くのものを得ようとする必要など無かったのではないかと、ひがみではなくかなり本心に近いところで言える気がする。  一見多くの物や大きな力を手にしているような人間の、余りにも汚くて醜い姿を毎日のように見せられると、その対極で生きてきただろうおばあちゃんの「食うに困っているのはサルぐれえなもの」と喝破する潔さが崇高に見える。自然に身を任せて生きてきた人間の澄んだ魂に優る物や力を僕は見たことがない。