踏切

 「知らない人も多いんです」と知らない人間の前で言われても困る。オタクと呼ばれる人が多いらしいが、僕はどちらかというとその逆だ。と言うより僕は淡白な人間だからオタクとばれるまで何かに興味を持てたことがない。寧ろ恐怖の飽き性と呼ばれている。良く父が間違って飽夫と名付けなかったものだ。  なんやら鉄と良く耳にするが、彼は正真正銘の本職だ。なんやら鉄の人には神々しく見えるかもしれない。ただ僕には一好青年でしかないが。そんな彼の具体的な職種を尋ねたとき気動車という言葉が出てきた。僕にはそれがイメージできなかった。そんな様子をすぐに見取って彼が教えてくれた。素人は気動車の気の字から電気をイメージしがちだが(僕だけかもしれないが)それなら電車と言う別の名前がある。不思議に思っていたら彼が、油で動くんですと教えてくれた。車と同じなんですと言われても、どこに油を積んでいるのか、あるいは煙突かマフラーか知らないがそれが見あたらない。と言うよりもっと初歩的な、架線がない線路が岡山県にまだあることすら知らなかった。架線がないところは石炭で走る蒸気機関車しか走れないと思っていたから。  僕レベルの読者のために昨日彼から仕入れた知識を忘れない間に披露する。油を炊くくらいだから煙突がいるのではないかと尋ねたら、さすがに煙突はないけれど、排気ガスを排出するところはあるらしい。煙突のように突起物ではなく、寧ろくぼんでいる構造らしくて人には見えない。だから気がつかないのだ。先にも書いたように架線がないから、何か遅れているように思えるけれど、寧ろ最近は見直されているらしい。架線を引く必要がないところが強みになっているらしいのだ。それは車と同じようにハイブリッド型のエンジンが開発されて燃費もいいし環境にも優しいから架線を引く工事代が倹約できるわけだ。  何か鉄道会社の宣伝みたいになったが、かの好青年は素人の僕に分かりやすく教えてくれた。なんでそんな青年が僕の漢方薬が必要になるのだろうと思うが、憧れの職業に就いたのはいいけれど、どこにでも様々な人間模様はあり、気動車を走らせるようには人間様を意のままに走らせることが出来なかったのだろう。  自分の土俵に上がった時の生き生きした表情と、体調不良を訴えるときの自信のなさは、どこの街でも見かける踏切で分断された駅の表と裏みたいだ。