諸刃

 今年一番美味しかった食事だと思う。有り難かったからではない、本当に美味しかった。妻が夕食までには帰れないらしくて、息子に夕食の用意を頼んでいた。息子は最近忙しくて、毎日100人近く診ているらしいが、文句も言わずに、途中で買い物をして帰ってきた。僕が薬局を閉める30分前に帰ってきていたから、30分で準備してくれたことになる。  別に僕の好物を意識したのではないだろうが、2階に上がっていくと餃子を焼いていた。食卓にはすでにチャーハンと八宝菜が並んでいた。僕はどうせ弁当でも買ってくるのだろうと思っていたから、この手作り風に驚きもしたしありがたいと思った。そしていざ食べてみるとどれもとても美味しかった。余りにも美味しいので素直に褒めたら、全部レトルト商品らしい。息子が手を加えたのは、八宝菜の白菜だけだと言っていた。僕はレトルトというのが良く分からないのだが、とても自然なものに思われた。不自然さは何も感じなかった。栄養が満たされているのかどうか分からないが、味に関しては素晴らしいと思った。味を褒めると、例えばチャーハンは王将のだと言っていたから、美味しいのも頷ける。  王将のだから、王将で買ってきたのかと思ったら、スーパーで買ったらしい。くどいが王将のだから一体どのくらいの値段か気になって尋ねたら、3種類二人分で1000円くらいと言っていた。となると一人分が500円だから、とても安く思えた。日曜日の僕の質素な外食でも500円は超える。この程度の金額ですむのなら、かの国の子達を10人くらい招いてもしれていると思った。最近人数が増えて、僕の財布では頼りなくなっていたので倹約できたらなと考えていたので朗報だった。  男が、いや女性も一人で暮らすのは結構簡単なんだと思える。これだけの物が簡単に食べられるのなら、それも500円で食べられるのなら、家庭なんかいらないと考える若者が多くても不思議ではない。便利が一体どこに行き着くのか分からないが、便利は創りもするし壊しもする。創るのと壊すのとどちらの恩恵がより有益なのか分からないが、諸刃であることだけは間違いない。