誤算

 「無駄なことは何もない」と言ったのはもう10数年前に過敏性腸症候群を完治させた娘だが、同じ言葉を昨夜次女が口にした。  数日前から不注意の後遺症で妻が家事が出来ない状態だ。我が家に年末から一緒に暮らしている次女三女に「お父さん達が自分達のお世話をするより、自分達がお父さん達を世話してくれる確率のほうが高いよ」と言っていたのだが、正にそれが現実のものになった。それもまだ2週間しか経っていないのに。  昨夜も2人に食事を作ってもらうことにした。それまでは妻が買い置いていた食材で何とかなったが、昨日から冷蔵庫は空きスペースだらけになった。二人が何か相談しながら紙に必要な食材を書き出していたからお金をことづけた。そこまでしか僕はかかわれない。  仕事が終わって2階に上がってみると食卓に料理が並べられていた。狭いテーブルの上が一杯だった。チャーハンとスープと鮭の・・・なんて言うのか分からない。野菜と一緒にホイルで焼いていた。僕はかの国の料理は全然ダメなので、まず匂いをかぐ。そして受け入れられる匂いなら恐る恐る口に運ぶ。香りがよかったから期待させる。そして味はといえば・・・どれも、とても美味しかった。  意外にも全くかの国の料理特有の臭みがない。臭みなどと言うと失礼だが、にんにくを多用する料理が多いから、僕には臭く感じる。実際に寮に遊びに行っても料理が始まるとちょっと閉口する。ところがそんな懸念は全くない。とにかくおいしいのだ。こんな料理も作れるのかと不思議だったので、「これ、国の料理に国のスープ?」と尋ねてみた。すると暮れまでアルバイトをしていた介護施設で覚えた日本料理なのだそうだ。なんでも週に一度は、彼女達が料理の担当だったらしい。道理で美味しいはずだ。どのくらいのレパートリーがあるのか尋ねると一杯あると答えた。これは嬉しい誤算だ。彼女達と同居するようになって、妻が4人分を作っていたが、この分野でも彼女達の世話になることが出来る。出てくるおかずの種類も増えそうだ。  管理者に対する不信感でそこからの援助を断って僕のところに来たのだが、こうした恩恵も受けていたのだ。そこで僕が「いいこともあったんじゃない」と言うと「ムダナコトハ ナニモナイ」といつか聞いた言葉で返した。