信号

 この状況だったら、岡山県人だったらどうするだろうなと思いながら信号が変わるのを待っていた。広島駅前の大通りと直角に交わる道路だが、幅は3いや4メートルくらいしかない。その上、大通りから入ってくる車もなさそうだし、大通りに出ようとする車もなかった。僕が立っている側に数人、向こう側にも数人の人がいたが、誰もが信号を無視して渡ろうとはしなかった。すると僕らの背後から一人の青年が自転車で勢いよく渡った。「まあまあ」これが僕の評価。  勉強会が終わった後同じ所を通ったのだが、その時は誰も信号を無視しなかった。絶対安全が確保されているはずなのだが、誰もが忍耐強く信号が変わるのを待った。「すばらしい」これが僕の評価。  ご存じの方もいると思うが、岡山駅から南側に出ると、どうしても片道2車線道路を渡らなければならない。駅から溢れた人でかなりの人数が信号が変わるたびに道を渡る。恐らく毎回何十人かが同時に渡るだろう。その交差点で丁度赤信号だった。日が暮れかけていた時間で急ぐ人もいたのかもしれないが、赤信号が変わるのを待てずに10人近い若者が渡った。僕は見えなかったのだが、大きな声がするから目を凝らすと2人の警察官が注意していた。  僕は未熟な若者達の脇の甘さに驚いた。こうした光景の集積が、半眼開きで人の3倍くらいの時間をかけて喋る男に付け入る隙を与えてしまうのだ。何を勘違いしているのか、いつまでも自分が権力の側にいると思っている奴らに、口実を与えるのだ。口を揃えて大声で叫んでも駄目で、クシャミをしても駄目で、内緒話をしても駄目で、駄目駄目の中で飼い殺しに会う、とんで火にいる夏の虫にあの若者達は進んでなっている。こんな低俗な人間の巻き添えになるのはまっぴら御免だ。