評価

 話していると、時々手を鼻の横辺りや目の下辺りにやって、軽く押さえる仕草が気になった。「どうしたの?」と尋ねると本人ではなくお姉さん役の僕と親しい方が答えた。「○○サン、ハナカラ チ デル」本人は笑顔だが笑顔ですまされる説明ではない。職業的にぴんと来ることがあったので、今度は通訳を介して質問した。「鼻が出る?」「デマス」「色は何色?」「ミドリデス」「匂い分かる?」「・・・」「コーヒー、いい香り、分かる?」匂いという単語が分からなかったようだから、僕はコーヒーカップで香りを楽しむような仕草をした。「ワカッタ イイニオイ シナイ」 恐らく副鼻腔炎で、かなり悪化させている。「○○さん、いつからなの?」「3カゲツ」「3ヶ月前、風邪をひいたの?」「ヒイタ」  なんてことだ、この子は3ヶ月前に風邪をひいて、その後遺症で副鼻腔炎を患っているのだ。恐らく鼻づまりも激しくて毎日が不愉快だったに違いない。「病院に行ったの?」と尋ねてみたが当然行っていない。何故なら彼女たちは以前帰った通訳が教えてくれたのだが「吐いたときと、倒れたとき以外は病院に行かない」のだから。正にこの子もそうだったのだ。僕はその不快さと、放っておいても治らないことを知っているから、翌日漢方薬を2週間分作ってことづけた。するとかなり軽快してくれたらしくて「チ デナイ ハナイタクナイ」と言っていた。まだ鼻に色が付いているから昨日1ヶ月分作って渡し、飲みきるように言った。「オトウサン イクラデスカ?」と尋ねるが、3年間、国の家族に少ない給料の半分を送り続けているのを見ていたから、お金はもらえない。「国に帰っても治っていなかったら病院に行って治してね」と言葉を添えたが果たしてそうするかどうかは分からない。  とんでもなく物が豊かな国で3年間を暮らし、とんでもなく素朴な人が待つ国に帰る。この国で汚れた埃を全部払い落として帰って欲しい。「ハヤクカエリタイ」と揃えた口がこの国の偽らざる評価だ。