大の大人が4人いるのに名前が浮かんでこない。旅行好きの女性は行ったことがあるのに浮かんでこないから重症だ。僕は何となくその人の説明で地理は分かるが、肝心の名前がでてこない。そのお嬢さんと僕の妻は話の内容がピンと来ていなかったので頭には何も浮かんでいないようだった。 今年も町の商工会主催で招待旅行があるそうだが、「嘗て私もくじに当たっていったことがある、四国に、あっちの方から・・・」と話が途中止めで終わったものだから気持ち悪くなって、そのあっちをハッキリしたかっただけなのだ。僕はあっちという言葉遣いであるところを想像したのだが名前がでてこない。その内やっと尾道の地名がでてきた。「尾道じゃろう、尾道から四国に渡った旅行じゃろう」とやっとの事で言うと、「そうそう尾道じゃ、尾道から橋で四国に渡ったんじゃ」女性もホッとした表情になった。そこで僕がやっとたどり着いた結論を言った。「しなまみ街道じゃ」と。すると女性も「しなまみ街道じゃ。やっと思い出した」とたどり着いたことを喜んだ。すると妻が「なんか違うんじゃないの」と異を挟むとお嬢さんもそれに同調した。「あっそうか、しらなみ街道じゃ」「いやなんか違う、しがらみ街道じゃないの」「なんでしがらみがあるの?」「やっぱり白波か?」と最後には訳が分からなくなって、僕は少し冷静になろうと距離をおいた。こんな簡単なことが分からないのが不思議だったが、最初に似たようなことを言われたばっかりに、本物が口から出てこない経験はしばしばある。だから少しだけ冷静になれば当然答えは出る。「しまなみ街道じゃ」「そうじゃが、どうしてそんなことが出て来なかったたんじゃろう」その後4人が同時に笑いの壺に落ちてしまい、倒れ込むくらい笑った。これでこの女性のウツウツは2週間安泰だ。これだけ笑える人が気持ちを患うことなんてあり得ない。日常の中に欠けているこんな風景こそが人の心を解放する。僕の漢方薬以上に。