即興音楽

 見ていて、いや聴いていて、僕は詩のボクシングを思い出していた。それぞれが、それは管弦楽器は勿論、篠笛、和太鼓などとの組み合わせを含めて、いわば戦っているように見えた。演奏者の表情がそうだったこともあるが、音がお互いに戦っているように聞こえた。恐らく即興音楽だから、耳の肥えた聴衆にとっては心地よい音なのだろうが、僕には合戦のように聞こえる。  ただそれは決して不愉快ではなく、とてもスリリングだった。どうして音が一致するのか、どこで音が離れるのか、何を切っ掛けに一致したり離れたりするのか見当が付かないが、ひょっとしたら演奏者自身がスリルを楽しんでいるのかもしれないと思った。合奏とは表現しえない共闘の音楽のように思えた。  初めて即興音楽というものを見たが、聴いたが、即興音楽とは何かと聞かれたら、僕は答える。譜面台がいらない音楽だと。譜面台がないから演奏者の動きが激しい。この動きが格闘技に見える。そう、まさに即興音楽は格闘技だ。