福山

 行きとはうって変わって、帰りは誰一人喋らない。と言うよりも4人がそれぞれのくつろぎ方で居眠りしている。夜勤の連続だから疲れが溜まっているのだろう。懸命に僕は眠気と戦いながら、安全運転を心がけた。何かあったら国で待っている家族に申し訳ないから緊張を心がけてはいるが、静かな車内では条件は悪い。もっとも喋ってくれても言葉がそんなに通じないから、眠気覚ましにはならないのかもしれないが。  それでも別れ際に一人の女性が「オトウサン ○○○○ニカエッテモ オボエル」と言ってくれた。「国に帰っても忘れません、良い想い出をありがとう」と言う意味だと理解している。しかし僕は大したことを今日してあげたわけではない。漢方薬をわざわざ関西からとりに来て下さる家族の方が大変な大道芸のファンで、いわゆる追っかけなのだろうが、その家族の方が今日福山で大道芸の大会があると教えてくれた。おまけにバラ祭りと重なっていて、かの国の女性を誘って見に行っただけなのだ。  本来なら、出来れば新幹線を利用して体力を温存するのだが、4人を連れていかなければならないことと、無理をすれば福山くらいなら僕でも車で行けるのではないかと思ったので、明らかに倹約を目的に車で行った。  テレビでしか大道芸らしきものは見たことがないが、自分でも恐らく好きなのではないかと常々思っていた。案の定、福山駅前の会場に着いてすぐに見たものから、驚き?感動?感嘆?で、僕を始め5人でその後も見入ってしまった。嘗てテレビで見たことがある幼い兄弟(ケントカイト)によるジャグリングも至近距離で見れば圧巻だった。街角で繰り広げられる小さなパフォーマンスに平穏という単語を思い出した。こんな単語が似合う空間があることに、如何にもそれを壊しそうな輩が極端に目立ちだした今だからこそかもしれないが安堵した。  パレードが行われると言うバラ公園でいい意味でも悪い意味でも期待を裏切られた。パレードだから何かのパフォーマンスを期待していたのだが、行列は銀行の行員だったり、ドラッグストアの社員だったり、宗教団体の信者だったりで、およそ県外から人を呼ぶようなものではなかった。ただ、30周年?記念と言うことでディズニーランドからミッキーマウスとミニマウス?がやって来て行列に加わっていた。これはさすがに洗練されていて、日本中から見に行くのも頷けるような気がした。ただそれも縮小版だからほんの数分の出来事だったが。 たったこれだけのことであのような言葉を言ってもらえるなら、もう少し頑張って帰国までにサプライズを企画してみようと思った。3年間ただひたすらに働き続ける子達に、最高の笑顔をして貰いたいから。日本人は親切、そう思って帰国して貰いたいから。いやいや僕の乾燥した心を癒してくれたお礼が一番なのかもしれない。