福山バラ祭り

 今まで連れて行っていた女性たちと今日の女性達との差は、少し僕に配慮してくれたことだろう。今日も駅を降りて最初の大道芸を見ている時に7人のうちの1人が早速「リーリー」を口にした。僕はまだ、芸が終わっていないから立ち去りにくいし、面白かったから「オトウサン コレ ダイスキ」と言って「行こう、行こう」を拒んだ。実際、他の1人の女性はそのアクロバットな芸に強烈な声援を送っていた。まるで和太鼓会場の僕のように。  「オトウサン バラ ミタイ」と言われたのは1ヶ月以上前のことだ。この季節に福山のバラ祭りに行くことを、覚えていたのだ。3年間の実習生生活を終え帰国する人を優先して連れて行くようにしているから、今年は自分に権利があると思ったのだろう。人選は声を上げた人にすべて任せることにしているが、この3月に来日した女性も1人含まれていた。幼い子供を国に残し覚悟の来日だが、好奇心が強く積極的に色々参加する。経済だけでなく、知識も持って帰れるのではないかと思う。  彼女達にとって、福山のバラ祭りは、正にバラの花目当てだ。ところが僕にとってのそれは大道芸祭りなのだ。関西地方の熱狂的な大道芸ファン一家と仕事で知り合ってから、僕もその魅力が少し分かり、福山は年に一度のマイイベントに登録している。だからバラと大道芸のギャップがあり、立場上僕は遠慮して、バラだらけの公園に急ぐ。  このバラだらけが彼女達にとってはたまらないようで、いつものように写真の撮りまくりだ。と言っても一歩下がって公園の様子を眺めていると、ほとんどの人が彼女たちと同じようにしている。日本人もそうだし、やたら多い東南アジア系の人たちもそうだし、白人も同じだ。  バラが好きなのか、自分を引き立ててくれる背景としてのバラが好きなのか分からないが、今日は最初の僕の自己主張のおかげで、例年よりはゆっくりと大道芸を見ることが出来た。どのくらい練習を積み重ねているのだろうと思わせる演技ばかりだったが、非日常の一こまに心を瞬間的に軽くしてもらった。鍛え抜かれた彼らに感謝。