予想外

 これは予想外だった。こうなると人ごとではない。 ある漢方薬メーカーの社員が一月前教えてくれた廃業予定の薬局が、実は僕がお世話している漢方の勉強会に数年間通ってきていた薬剤師が経営する薬局だと言うことを、今日、他の漢方問屋の社員が教えてくれた。若くて熱心な薬剤師だという推薦で勉強会のメンバーに迎えたのだが、その推薦どおりで、又謙虚な性格だったので、少なくとも勉強会仲間の評価は良好だったと思う。先生の講演内容を一言も漏らすまいと必ず一番前の席に陣取り毎回ビデオテープに撮っていたのが印象的だった。一人遠くから(5時間くらいかけてきていた)来ていたから、それが負担だったのか数年で退会したが、その後も半分くらいの距離の勉強会に参加して熱心に勉強していたらしい。半分でも2時間以上かかるのだが、彼の住む地方には、県庁所在地ではあるのだが、彼の研究心を満たす勉強会はないと言っていた。  10年くらい漢方専門薬局をやっていたらしいが、聞くところによると彼は結構アカデミックな人で、理論で固めなければ満足できないいわゆるくそまじめタイプだったみたいだ。その対極にある僕は結構そんな彼を評価していたのだが、彼にしてみればなんとも頼りなかったかもしれない。僕が事務方でお世話している勉強会の先生も、決して理論ぶったりしない先生だから、誰かに陰とか陽とか実とか陰とかそれらしい用語を連発されれば、そちらに引き込まれる素養を持っていたのかもしれない。効かせることにおいて誰も僕の先生の右に出る人はいないと自信を持って言えるが、なんとも立派に見えないところが、その手の人達には物足りないのかもしれない。僕らはそこにこそ最高の親近感を抱いているのだけれど。  あれだけ好きだった漢方薬局を止めて人生のモチベーションをどの様に保ってこれから生活していくのか分からないが、自称カリスマ達の繁栄の陰で又一人職人薬剤師が消える。