格差

 おおなんて言う贅沢犬なんだろう。決してそのようには育ててはいないのだけれど、10倍の格差があるとは。 僕は気がつかなかったが、妻と娘はモコのお腹に沢山のしこりがあることに気がついていた。獣医に診てもらったら癌のようだと言う。手術をするかどうかはこちらの選択に任されたらしいから、娘は自分で治してやろうと思ったのだろう、その日以来、癌の患者さんに使うある漢方薬を飲ませている。いや食べさせている。美味しいのか喜んでかけらを食べるらしいのだ。その甲斐あって、しこりが少し小さくなったと娘も妻も評価している。そこでさすがに娘も考えたらしくて、同じ薬草でもっと安いのはないかと僕に尋ねた。問屋に照会すると、なんと値段が10分の1のものがあった。耳を疑ったがさすがに犬に飲ませるものだからそれでもいいだろうと思い、早速取り寄せた。  それで全て解決と思っていたら昨日娘が、モコがその菌糸体を食べると口の回りを痒そうに舐めるばかりするというのだ。その上以前のように飛びつくようにして食べないのだそうだ。人間の量で言うと1日分が1000円する薬草だが、それが100円ですめばほとんどの癌患者さんに使えると内心喜んでいたのだが、やはり値段が10分の1には何か訳があるのだろう。そもそもそんな値段のものが存在するなどとは考えたこともないから、モコのことがなければ目にすることもなかったものだが、しかし確かに流通しているのだ。ピンからキリまでと言えばそれまでだが、犬が嫌うと言うことは何か不自然なものが含まれているのではないかと勘ぐりたくなる。  早速今日から又高級なやつに戻したらしいが、その菌糸体を漢方薬と一緒に飲みたくても経済的に飲めない癌の方が多い中で、我が家のモコは、たとえ人間との体重比で10分の1の量しか飲んでいないにしても、薬局に貰われてきて幸せなやつだ。もっとも前に飼っていたのが医者だから、不幸になったのかもしれないが。