意外

 意外だが理にかなっている。そうしてみると日本人は文明の利器を武器に大変なことをしていることになる。 お昼ご飯に教会でソーメンを出して貰った。麺にも氷が、つゆにも氷が入っていて念が入っている。見た目にも綺麗で涼しげだから暑い日でも食欲をそそられる。一緒に行ったかの国の女性に美味しいかどうか尋ねたら「まあまあ」という、とても便利な日本語で返事が返ってきた。僕が教えた言葉か何処かで覚えた言葉か分からないが、この言葉を使ったときの日本人の評価はおおむね低いのが相場だ。全否定の失礼を防ぐためにえてして使われるまさに日本人的な言葉だ。二人の評価も恐らく高くはなかったのだろうから、理由を知りたかった。淡泊な味が好まれないのかと思ったら、何と冷たいことがそもそも受け付けることが出来ないのだそうだ。それが証拠に帰りの車の中で若い方の女性が気持ちが悪いと言い出した。持ち合わせの薬がなかったので、薬局で薬を買ってあげると言うと、車から降りて暖まれば治ると答えた。事実カークーラーのない状態になるとすぐに治ってしまった。  1年中夏しかない土地の人が「ワタシノクニにはツメタイタベモノナイ」と言ったのは驚きだった。冷たい物しか食べないなら分かるが、汗を吹き出さなければならないような食事を3度3度するのかと思うともうそれだけでアセモが出そうだ。ただこれはとても理にかなっている。発汗させて体温を下げようとしているとも考えられるし、火を通すことで食中毒を防いできたってことも考えられる。どちらにしてもかの国で健康的に暮らすには、必要条件のような気がした。恐らく科学的にまだ理論づけられない頃からの習慣だろうから、人間の知恵には感心する。 冷蔵庫やクーラーなど人工的に作り出した環境で、まるで自然と乖離した生活が、健康や寿命を保証するものではないように思う。虫歯一本もなくまるでモデルのようなスタイルで、なおかつ健康でよく働く彼女たちを見ていると、胃袋を氷嚢にして体温を下げて、疲れた~を連発するこの国の働き人の危うい将来が見えてくる。ソーメンもラーメンもアーメンも熱いかの国に比べて、この国は全に冷がつく。