皮肉

 どこへ向かっていた空の上か知らないが、機内放送で呼びかけられてある若い女性の世話をしたらしい。丁度同じように乗り合わせていた看護師さんの手助けもあったらしい。こういう人達が一緒に乗っていてくれれば僕でもなんとか行き着くことが出来るかもしれない。僕の場合どちらかというと鍼の先生の方がいいが。 仕事ばかりの人生だったから、姉達や息子や娘が偶然口を揃えて、外国旅行でもしたらと言ってくれた。気力も体力もあるときなら、すぐにでもお言葉に甘えそうだが、残念ながら今はどちらもない。寧ろ無事たどり着けるのかとか、無事帰ってこれるのかなどと心配が先に立ってしまう。テレビなどで僕などよりはるかに年上の人達が外国旅行を楽しんでいるのを見ると、そのエネルギーに圧倒されてしまう。  ほんの少しのやりきったことのために多くのやらなかったことを作ってしまったが、僕の力量から言えばまずまずだろう。その事に悔いはない。本来的に動的な人間ではないから、多くを望まなかったし賭けに出るタイプではなかった。極めることは出来なかったがぶれなかった。結果よりその姿勢のほうがいまでは愛おしい。ほとんどの人はその程度の満足で人生を肯定しているのではないか。  金属が空高く飛ぶことに恐怖したおかげで、地に足が着いた人生を送れた。なんとも皮肉なものだ。