斜め

 先週の土曜日の夕方のこと。ある患者さんと娘のやりとりを調剤室から聞くともなく聞いていた。動悸が何日も収まらなくて大きな病院にかからなくてはならないかと迷っていたら、職場の同僚がヤマト薬局に行ったら動悸が治ると教えてくれて訪ねてきたと言っていた。紹介してくれたのが誰だか知らないが、動悸が治るとすこぶるピンポイントなのがなんだか興味深かった。嘗てその人自身の動悸が当方の漢方薬で治ったのか、親類の誰かが治ったのだろうか。娘が色々と問診をしていて、その答えを聞いているうちに、紹介してくれた人に報いることが出来ると僕は確信していた。  結局娘は1週間分漢方薬を作って渡したそうだが、今日の昼にその女性がふらりとやってきて、娘に嬉しそうな顔で礼を言っていた。その日の夕食前と寝る前に漢方薬を飲んで何日ぶりかに動悸で眠れないことから解放されたらしい。夜間の動悸は救急車を呼ばなければならない辺りまで不安を増長させるトラブルだから、それからの解放は嬉しいだろう。その後3日間漢方薬を飲んで本人は完治したと思っている。だから残った漢方薬をどうしようと相談に来たのだ。娘は冷凍庫で保管しておくように指示していた。そうすればいつだって新鮮なまま手許にあるってことになるから、患者さんも安心だろう。 まるで風邪が治るように治ってもらった。本人はもうこれで解放されるだろう。もし彼女が病院にかかっていたら果たしてこんなに簡単に治っただろうか。検査と薬でひょっとしたら病人になっていたかもしれない。まるで風邪を治すかの如く簡単な対処だったから自身に重病の印象は残らなくてトラウマにもならなかったのではないか。たかが漢方薬局が言うのはおこがましいが、本人のもっている自然治癒力を生かしたほうが、現代医学の粋を生かしたものより優ることはしばしば経験する。創薬の発達が健康増進のためというより、企業の金儲けの手段に成り下がっている印象を次第に深めている僕は、泥臭く次の世代(娘夫婦や息子)に漢方を伝えていってやろうと思っている。ものを斜めに見る薬局があってもいいだろう。