したたか

 「今時の女性は、したたかですな」と感慨深そうに言うから、僕も自然に頷いていた。ところが話が具体的になるに従って、「今時」に疑問が出てきた。僕が今時で想像するのはやま30歳代くらいまでだったのだが、その方の今時はどうやら、50から60歳代をさしているらしい。僕とその方を足すと、今時どころか「全世代が」になってしまう。  自分から話しだしたのだから別に隠す事ではないらしい。勿論正式な届けを出すのだから何ら後ろめたいこともない。時代の先端を行っているのか、芸能人並かわからないが、今や特別珍しいものではなくなった。ただお見合いの時に、条件が色々と出てとても飲めるものではなかったらしい。まだ仕事があるから同居は5年待って欲しいとか、牛窓に住んでもいいが仕事場として岡山市内に2階建ての家を造って欲しいとか、借金が150万円あるからそれを払うことが条件だとか、まあ、足元を見られているのかどうか知らないが、全て金銭に絡む条件ばかりだ。その男性は80歳にならんとしても、とても理知的な人だからそんな魂胆は簡単に見破る。何が何でもというわけではなく、ある自分の志にどうしても伴侶が必要なだけらしいのだ。そのおかげでしたたかな計算に乗ることはなく、冷静に選別できたらしくて、6人目にとても良い女性に巡り会ったらしい。  僕はこの6人目という、余りにも少ない数字がちょっと気にかかるが、本人は自信ありげだし、納得しているのだから僕の介入すべきものではない。良かったじゃないですかと適当な相づちを打ったが、したたかと良い女性があの年齢相手に5対1の割合であることが信じがたい。いくらでも足元を見ることが出来る圧倒的な優位に女性の方があることは明白だ。芸能人ならまだ失敗もネタになるが、一般人なら笑いものだ。  したたかな女性達の中からしたたかに良い女性を選んだのだろうが、一番したたかなのはしたたかでないように演じたそのしたたかな女性ってことにならないことを祈るばかりだ。