値上げ

 パソコンに向かっている僕の背後に回って、ポップ用に置いてある魚の模型で僕の肩をぽんぽんと叩いて話しかけてきた。この瞬間、異国の人、年長者、薬剤師などの垣根が全部取り払われてくれたような気がした。 先週、金融機関の不手際で、彼女の仲間のお金が一瞬行方不明になりかけた。顔色を変えて飛び込んできたのだが、30年以上金融機関に行ったことがない僕は、現代のシステムが全く分からない。キャッシュカードも持っていないのだから使い方も知らない。これは言葉以前の障壁だ。役に立ちようがなかったので妻に振った。何度か2人で金融機関を往復して解決したらしいが、その時に一気に僕との垣根も低くなってくれたのかもしれない。  何百万倍、果ては億の単位まで現れだしたらついにさすがの彼らも、自己保存をはかり始めた。「1週間前に私が危惧して言ったのは・・・ 」得意の話法がそろそろ恥じらいもなく始まる。何を守って安心を連呼したのか知らないが、連呼した分の責任を追及されるべきだ。何日遅れの安全情報を流されても、もうすんでいる事では意味がない。取り返しがつかないことをいくら教えられても意味がない。 高田渡の歌に下記のようなのがある。福島のニュースを見るたびにこの値上げって言う彼の歌を思い出す。

値上げは ぜんぜん考えぬ 年内 値上げは考えぬ 当分 値上げはありえない 極力 値上げはおさえたい 今のところ 値上げはみおくりたい すぐに 値上げを認めない

値上げがあるとしても今ではない なるべく値上げはさけたい 値上げせざるを得ないという声もあるが値上げするかどうかは検討中である 値上げもさけられないかもしれないがまだまだ時期が早すぎる 値上げの時期は考えたい

値上げを認めたわけではない すぐに値上げはしたくない 値上げには消極的であるが年内 値上げもやむを得ぬ 近く 値上げもやむを得ぬ 値上げもやむを得ぬ 値上げにふみきろう

 彼女に「あなたの国では1ヶ月いくらあったら暮らすことが出来る?」と尋ねたが、唐突な質問だったからかハッキリとした回答が得られなかった。実は僕にとっては別段唐突なことではなく、今度やって来たら尋ねてみようと予定していたことなのだ。旅行する気力も体力も僕にはないが、子や孫は避難させたいと思うのは誰でも同じだろう。  偉い人達の常套文句は若いときに聴いたこの高田渡の歌で分かっている。そろそろ変わりはじめた言葉に僕は確信犯的に過剰反応する。風評被害などと言う便利な言葉を持ちだして希釈されてはかなわない。「実害」以外に使うべき言葉はない。